シナリオ011   冬幻鏡 うつしよ 


 


冷たいねとあなたは言った。

そうね、冷たいと私は答えた。

ねぇ、冬の息がなぜ白いか知っている?あなたは言った。

ええ、言葉に込めた想いが形で見えるように、きっと世界がそうしてくれたのよ。私は答えた。

意外とロマンチストなのね。あなたは言った。

意外とは心外ね、私は答えた。

言葉の結晶化、とても素敵な響きだとは思わない?私は言った。

そうね、触れられるほうが、きっとあたたかいと思うわ。あなたは答えた。



冬の冷たさは、熱を奪い、命を奪う。

だからこそ。その心を形で、身体で、確かめ合うために。








1月28日 某所 私立図書館 

「あー机つめたーい。」

「ぶつくさいわない。ほらっ課題山盛りなんだから」

どさっと音を立てながらメリーはふるくさーい文献を次々に棚から引き抜いては机に積み上げていく。
山を作ってるのはどっちよ、心の中で思ってるだけにしておいた。

今は何を隠そうテスト期間中だ。
頭の硬いおじいちゃんが気紛れに出した課題を片付けるついでに、メリーが最近見つけたこの
小さい図書館に来ている。司書のおばあちゃんは小さい眼鏡を鼻に掛け、ちくちくと編み物をしていた。

学生の本分は勉学。だがしかし、近い将来を決める大切なときに、勉強が手につくはずも

「あるわよ」

「で・・・ですよねぇ・・・・・・」

世の中はいつまでたっても慌しく、けれどある種の揺り篭の中は平穏そのものだ。
気になることのほうが山盛りなのに、目先に吊り下げられたお肉を我慢することはたぶん、若い私にはできない。

机にダイレクトほっぺは冷たくて嫌です。ストーブで炙ったレポート用紙を机にしいてせっせと働くメリーを眺めた。
そんなことよりあったかい。

「メリーさー、焼肉と寿司だったらどっちが好き?」

「んーお寿司」

なんでもないように、世界は変わろうとしているのにもかかわらず、上滑りしていくような日常に
焦りを抱いているのは私だけなのだろうか。



12月26日 長野県 某所

私たちは再び「博霊神社」へと足を向ける。

「ほんとにここであってるの・・・?」

「ええ・・・・・・」

しかし、そこにあったであろう博霊神社は姿形も跡形も無かった。

不思議な体験はいくつもしたつもりではあったけど。
狐につままれたっていうのはこういう気持ちのことなのね。

あの日手に入れた一枚のカードもうんともすんとも言わないし、
一時期ネットで騒がれた話題云々も結局、何の糸口も見出せぬままでいたからこそ何か手がかりでもと思って来たのに。

「ねぇ・・・あれ」

「狐だ・・・」

本当に狐につままれただけだったのだろうか?それとも。

「無駄足・・・?」

「・・・温泉でも」

運よく二人は前向きだったが、何の手がかりも無かったのは肩透かしもいいところだ。
資料を集め考察に考察を重ねても答えは出ない。秘密。私たちは何かとてつもない秘密に触れているのかもしれない。
そんな予感だけがしていたけれど、テレビのニュースではもとより、戸口の立てられない人の口からでさえも何の情報も
得られない。はたから見てるだけじゃ何も見えないのはわかってるからこそ、手足を使って探してるのに。
カードと少女のキーワード。何の関連性があるのかがまったく見えない。
そんなこといったら乙女がカード持ってるわよ。今現在進行形で。うーん・・・。




「あーあー手につかない!」

「はいはい、くっつけたくっつけた」

隣にすとんと座った彼女ににシャーペンを無理やり掴まされた。鬼め。
少し頬の赤いメリーの横顔を恨めしく見つめてみたが、素知らぬふりでノートを黒くしてゆく。
しぶしぶ・・・。しぶしぶしぶ・・・。やるか・・・。
ひんやりと筆箱の中で眠っていた彼らは、私の手の中で少しずつ息を吹き返してゆく。

かりかり。

うん、筆がのってきた。目先のお肉を食べちゃってから次のお肉を捜せばいいのよね。
若いって単純だわぁ。

多分私たちにしか見えていないもの、だもの。誰かに取られる心配なんて必要無い、と思うのも若さゆえの。
筆が止まってしまった。おお勇者よ、情けない。攻略のヒントを聞くとしましょう。

「メリーの手、冷たかったよ」

「誰かさんよりは働いてるからね」

・・・・・・そうじゃなくて。いや、そうなんだけど。



「ここのところなんだけど・・・――――










――――あら、少しあたたかくしすぎたかねぇ。眠っちゃってた。

「おやおや、あの子達・・・。」

そろそろ閉館時間だけれど、まだ寝かせておきましょうか・・・。
寝る子は育つっていいますもの。


「すみません、この本貸していただきたいのですが」

「ああ、はいはいこちらにお名前とご連絡先をお願いしますね」

「あら珍しい、お若いのにこんな本に興味がおありで」

「えっ、ああはい・・・」

「『陰陽八卦和之法』・・・懐かしいわぁ・・・亡くなった主人が友人に頼み込んでお願いしたものだわ」

「ねぇ」

「ああ、ごめん・・・。大切なものなんですね、読み終わったらすぐにお返しします」

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」





ぎい・・・。

ばたん・・・。


「若いのに勉強熱心ねぇ今の子達は。疲れて眠ってしまうのも仕方ないわね。あの子達にお茶でも淹れてあげようかしらねぇ」

きぃ・・・。たんたんたん。




―――――外は雪が降り始めていた。幸い風は無い。
彼女は僕が借りた本を大切にかばんに入れて胸に抱えていた。

「・・・そんなに大事?」

「けほっ・・・大事・・・」

「ほら・・・風邪ひいちゃうから早く帰ろうよ」

「・・・・・・」

急に振り返って空を見つめる。

「どうしたの・・・?って―――

ぐいっと手を引っ張られ、雪道に足を取られそうになりながら路地に連れ込まれる。

「・・・来るわ、持ってて。飛ぶから・・・荷物あるから・・・二枚」

本を押し付けられながら、鞄の中から言われたとおりに二枚のカードを取り出して呟く。

「シークレット・ストロール」『魔符「ミルキーウェイ」』

深く被っていたフードをはずした彼女の、紫色の髪が揺れる。



おわり。
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